ルポ:婚活パーティー
9月18日付の日経電子版にこんな記事が載っていた
記事の内容をざっくりまとめると20代の婚活パーティー、結婚相談所の人気が高まっており、20代の既婚者の22%がなんらかの婚活サービスの利用によるということだった。
この記事に興味をもった筆者は噂には聞くが、実態がよくわからない婚活パーティーというものに行ってみた。今回はその婚活パーティーの様子について書きたいと思う。
目次
1.婚活パーティーのメリットとは?
いま流行の婚活パーティーやマッチングアプリ。
そんな婚活パーティーやSNSによるマッチングを利用した出会いは気が進まないう人がいるかもしれないがそんな人はまずこれを読んでほしい。
この記事によると、米国で2005年~2012年に結婚した19,000人以上を対象とした調査で調査対象者のうち1/3は、SNSによるマッチングなどを含めたオンラインで始まった関係から結婚まで発展したこと、またそのようなオンラインベースのマッチングから結婚に至り、その後離婚や別居してしまった割合は6%以下と現実世界での出会いから至り、その後離婚や別居してしまった割合の7.5%以上という数値に比べ低い離婚、別居率となっているということがある研究グループから明らかにされたのだ。
婚活パーティーやSNSでの出会いはいわゆる一般的な自然恋愛からすると「不自然」だと思われるかもしれない。しかしながらこれらの婚活サービスは不確かでよくわからない確率的に発生する自然な出会いよりは確度がより高く、自らの嗜好するタイプの異性と出会うことができるだろう。オンラインベースの出会いと同じようにそれが婚活パーティーをはじめとした婚活サービスのメリットではないだろうか。
2.いざ婚活パーティーへ
じゃあ婚活パーティーってどんな人がいて具体的にどんなことするの?という読者の疑問にこたえるべく、ここからは筆者の婚活パーティー体験を綴っていきたいと思う。
1.婚活パーティーの予約~婚活パーティーってどんな種類があるの?
まずは婚活パーティーの予約からだ。
婚活パーティーの予約の流れはザッと以下のようだ。
1.婚活パーティー運営会社のサイトへ行く。
↓
2.自分の性別、年齢、パーティー希望開催の日時、エリア、形式を選択する。
↓
3.上記の2.でフィルタリングされたパーティーのうち自らの好みに合う企画パーティーを選択する。
↓
4.選択したパーティーを予約しクレジットカードまたはコンビニで支払いを済ませる。
How easy !
△男性、24歳、東京エリアの条件である日の婚活パーティーを検索してみると平日にもかかわらず8件のパーティーがヒットした。いかに多くのパーティーが企画、開催されているかがわかる。
婚活パーティーを企画、運営している会社は複数あるので読者の皆さんには比較検討した上での予約をオススメするが、今回筆者はGoogle chromeで「婚活パーティー」のキーワードで検索しトップに表示された株式会社IBJが運営している婚活パーティーサイトで予約してみた。
希望の条件でパーティーを検索してみると驚いたことに多種多様な婚活パーティーが企画があることが分かった。パーティーの形式が個室で1対1で会話、複数人で料理をするなどいろいろるとともに、各パーティーごとに男性、女性の参加条件があり男性は主に年齢、身長、学歴、職種、年収、女性は年齢によって参加の制約が課されている。
一見して男性に課される条件が多く、女性に課される条件が少ないのは世知辛いなと思ったのだが女性はそれだけ相手に求める条件が現実的であり敏感で一方の男性は年齢(と顔と性格)という指標以外は対して気にしないということの裏返しなのかもしれない。
費用に関してはどのパーティーも男性が7,000~8,000円程度で女性はその半額程度というのが相場でWEBで予約をすると500円割引になるようだ。パーティーには「『3ヶ月以内にお付き合いをお考え』×『同年代』限定パーティー☆」「男女30代限定♡童顔だねと言われる女性大集合♪」「女性アンダー29♥1年以内の結婚も視野に入れたお付き合い希望者編」「《年収800万円以上の男性♡》×《頼れる彼氏が欲しい女性》限定♪」など魅力的なテーマがつけられ、参加者は気になるパーティーを選択し申し込み参加するという形式だ。
筆者は男性だが、今回初参加ということで初参加者限定と銘打ったパーティーに参加し、初参加者限定の特別割引+WEB割引で4,500円で婚活パーティーに参加することができた。一方の女性は男性より3,000円安く、1,500円で参加可能だ。女性にしてみれば、映画を一回観に行くのと変わらない金額で結婚につながる出会いが手に入るかも知れないと思えばこの金額は安いのではないのだろうか。なお今回のパーティーの参加条件は男性が24~32歳、年収500万以上or高身長男性(175cm以上)or大卒以上、女性が22~29歳という条件を満たしている人というものだった。
参考までに筆者のプロフィールは24歳男性(今回の男性参加者ではおそらく最年少)、現在年収0円、身長176cm、某国立大卒、某国立大大学院在学中、某総合商社勤務予定だ。
主催者発表によると今回の参加した6名の男性陣には医師や年収800万円以上といった男性がいたようで、顔の見た目や性格といったことはわからないが、経済的な豊かさという点ではかなり魅力的なメンバーではないだろうか。
今回のパーティーの内容をまず先に説明させていただきたい。
先述の条件を満たした男女が8対8(最少催行人数4対4)で個室(個別ブース)で1対1で6分間個別に話をし、その後ローテーションをしすべての参加者の異性との会話が終了したのち、それを踏まえて各参加者はいいと思った3人までの異性にアピールカードを書き主催者側を通じて当人に渡し、参加者はそのカードを主催者側を通じて受け取り、総合的に判断する。その後各参加者はカップリングの希望カードに第1希望~第3希望までの異性の名前を記入し再び主催者側に渡す。
カップリングカードをすべての参加者から回収した主催者側は男女のカップリング結果を集計し、お互いにカップリングを希望した男女のみカップリング成立とみなし、それらのカップルのみが晴れて連絡先を交換することができるのだ。
これらの形式のいい点は「参加者のプライバシーが保護される」ということと「すべての異性と一人ずつ均等な時間会話できる」ということだ。まず前者について説明すると一つ目はプロフィールに書く名前がひらがなだけ名字のみだけでよいということがあげられる。フルネームの漢字氏名を書く必要がないのでフェイスブックなどのSNSなどをむやみやたらと詮索されることはないだろう。2つ目は連絡先の交換がカップリングされた異性のみ可能という点だ。自分の興味のない異性から連絡の交換を強要されることがないので安心して連絡先を交換することができる。また後者については一人6分という短い時間ではあるがすべての異性と一人ずつ均等な時間で会話できるので不公平感がなく会話を楽しむことができる。
2.いざ会場へ~婚活パーティーの会場ってどうなってるの?
筆者が参加したのは9月19日の15:15~新宿西口で行われるパーティーだった。
服装はジーンズにモスグリーンのジャケット。服装は清潔感があればいいとのことだったのでだいぶラフではあったがこの格好で参加させていただいた。(男性はカジュアルなシャツにパンツ、女性はブラウスにスカートが多かった)
会場は新宿西口にある新宿郵便局の道路を挟んで南側にあるオフィスビルの11階で、エレベーターで11階まで上がり、エレベーターを降りて右手へ進んだ突き当りに会場の入り口があった。
△婚活パーティーが開催されるオフィスがある新宿西口のビル。新宿郵便局の目の前にある。
会場の入り口を入るとすぐ左手に受付があり、受付を除いたフロア全体には定員2名の個室ブースが30個ほどズラーッと並んでいた。参加者はこれらのブースで男女1対1で会話をすることになる。今回参加した婚活パーティーの参加者は男性6名、女性3名(予定では4名)には広すぎる会場だったが、筆者が参加する15:15~の回以前の婚活パーティーが行われており、複数のパーティーが同じ会場で行われているようだ。
受付にはスーツに身を包んだ主催者側の男性が4名程度おり、身分証を提示し受付を済ませると、A5サイズで参加者の異性のひらがなの名字のリストが記載された用紙が1枚、それぞれの異性について、ひらがな名字、年齢、身長、趣味、好きなタイプの異性、自己PRなどが記載された用紙が1枚ずつ、それにメモ用紙2枚がファイリングされたバインダーと簡易鉛筆、ローテーション後に記入するアピールカードとカップリングカード、そして氏名の代わりに番号が記載された名札を手渡され、その番号と同じ番号のブースへと案内された。
3.婚活パーティーのはじまり~どんな人が参加してるの?
ブースは初対面の男女が面と向かって話すことは難しいだろうとの配慮からか男女横並びに2席。ソフトドリンクとして主催者側が緑茶を用意してくれる。ブースに案内されたものの筆者の最初のマッチング相手の女性はまだ来ておらず、彼女が来るまでの間、筆者は参加者の女性リストを眺めていた。参加者のプロフィール(女性)を以下に示す。
番号:1番
名前:さいとう
年齢:27歳
学歴:大卒
職業:営業
年収:300~400万
(身長、血液型、喫煙、飲酒の有無、婚姻歴など中略)
趣味:スポーツ、映画
好きなタイプ:誠実・優しい人
番号:2番
名前:なかがわ
年齢:23歳
学歴:専門学校卒
職業:看護師
年収:400~500万
(身長、血液型、喫煙、飲酒の有無、婚姻歴など中略)
趣味:その他
好きなタイプ:誠実・優しい人、清潔・爽やかな人
番号:3番
名前:かきみ(欠席)
年齢:28歳
学歴:大卒
職業:総務
年収:300~400万
(身長、血液型、喫煙、飲酒の有無、婚姻歴など中略)
趣味:映画
好きなタイプ:面白い・話題豊富な人、清潔・さわやかな人、誠実・優しい人
番号:4番
名前:なかい
年齢:26歳
学歴:大卒
職業:営業
年収:300~400万
(身長、血液型、喫煙、飲酒の有無、婚姻歴など中略)
趣味:音楽、読書、旅行、その他
好きなタイプ:知的・クールな人、清潔・さわやかな人、ポジティブ・積極的な人
男性のみなさん、どうやら女性は誠実で優しくて清潔感がある男性がお好きなようです。。。
どこにでもいそうだけどね。。。。いないんだろうね。。。。
一方の男性はというと6名おり20代後半が多く、30代前半と思しき男性もいた。
筆者がブースに案内され、10分ほどして漸く同じブースに女性(さいとうさん)が案内され、全員そろったところで主催者側の「はじめてください」の掛け声がブースの外から聞こえてきて婚活パーティーが始まった。
話の内容としてはお互いの自己紹介、仕事や趣味について、その他の雑談といったところで制限時間の6分があっという間に過ぎてしまう。
制限時間が来ると主催者側から参加者男性に一つ隣のブースへと移動するようにアナウンスされる。こうして会話→移動→会話→…を繰り返すことですべての参加者がすべての異性と会話することができる。なお、今回は男性の参加者が女性の参加者より多かったため男性が会話→移動→空ブース→会話→…を繰り返すことで帳尻を合わせていた。
ローテーションを終えた筆者の女性参加者(欠席のかきみさん)に対する感想をここで述べたいと思う。
1番:さいとうさん
・見た目:切れ長の一重目、高い鼻
・あだ名:東洋の魔女
・性格:フランクに話しかけてくれる。IT関係の仕事をしているせいか話が論理的でわかりやすいが、聞いたこととは別の答えが返ってくる。
2番:なかがわさん
・見た目:筆者の2倍くらい体重ありそうだけど顔はかわいい
・あだ名:業務用マシュマロ女子
・性格:キンプリ大好き(腐)女子。話しやすい。同性から好かれそう。いい人。
4番:なかいさん
・見た目:黒髪ロング美女
・あだ名:大和撫子(仮)
・性格:鼻の横のほくろがチャームポイント。キレイ系。話しやすい。字が綺麗。たぶんいい人。
筆者の推しメンは「なかいさん」に決定した。
4.婚活パーティーの終わり~婚活パーティーの終わりには何するの?(1)
こうしてトークタイムが終わり、すべてのローテーションが終了した。
先述したとおりローテーション後は2段階のステップを踏んでカップリングを行うことになる。
一段階目は「いいなアピール」だ。
すべての参加者がトークタイムを振り返ってよかったなと思う人の番号と名字を3名まで記入し、簡単なメッセージを添えて当の本人にそのカードを渡すことができる。
なお、このカードの記入は女性がブース内に残り、男性がブースから捌けて女性から離れた場所で記入するため、お互い気兼ねなくカードを記入することができ、カードを渡すのも本人が直接渡すのではなく主催者側が記入後のカードを回収し、そのカードを当事者に渡す、いわば郵便配達方式でカードが渡されるためここでもお互いに気にすることなくアピールすることができるのだ。
△アピールカード表面。気になる異性の番号と名前を記入する。今回はすべての女性の参加者からカードをいただくことができた。
△アピールカード裏面。自分の番号と名前を記入する。メッセージを記入することもできる。
なかいさんとのトークタイムで彼女がかつて国語教師をしていたことを聞き、筆者「字が綺麗なんでしょうね、僕は字が汚くて一般の人には古代文字並に解読不能のようです」というとなかいさんはクスクス笑っていたが彼女からカードを受け取りやはり字が綺麗であることがわかった。「いいなアピール」では筆者は推しメンであるなかいさんにのみカードを渡し、メッセージには「字が読みづらくてすみません」と古代文字のような字で書いたのだが、この結果が吉と出たのか凶と出たのかはわからない。
5.婚活パーティーの終わり~婚活パーティーの終わりには何するの?(2)
「いいなアピール」が終わるとこの結果を踏まえて「カップル希望」タイムに移ることになる。この「カップル希望」タイムでは、最終的なカップリングを希望する相手の番号と名前を第1希望~第3希望までカップル希望カードに記入する。そのカードを「いいいなアピール」のときと同様に主催者側が回収し、回収後に集計、お互いのカップル希望がマッチした男女が晴れてカップリングされ、連絡先が交換できるというわけだ。
集計が終わると主催者側から1人ずつ男性の名前が呼ばれる。名前が呼ばれた男性は入り口の受付まで荷物をもって歩いていき、カップリング成立の場合はカップリングした相手の女性の名前を告げられ1階の入り口で相手の女性を待つように言われるので下へ降りていく。一方でカップリングが成立しなかった男性はそのままさよならだ。女性はただひたすらブースで待ち、男性がみんないなくなった後下に降りていき、カップリングした場合はその男性と一緒になり、それ以外の女性はさよならだ。
つまりカップリングが成立しない場合はトークタイムが実質参加者の女性との最後の会話になり、カップリングが成立した場合は意中の相手と再会し連絡先を交換するなりデートするなりできるのだ。
「カップル希望」タイムでは筆者は「いいなアピール」のときと同じくなかいさんを第1希望にし、第2希望、第3希望は空白でカードを提出した。
カップリングの集計が終わり、筆者の名前が呼ばれ受付へと歩いていく。
受付まで行って主催者側から伝えられた言葉は
「残念ながら今回はカップリングなりませんでした。またのお越しをお待ちしております」
こうして筆者の初めての婚活パーティーが幕を閉じた。
3.終わりに
いかがだっただろうか。
記事の冒頭にお示したように、情報化が進む昨今ではSNSを利用したマッチングや、ネットで手軽に申し込みできる婚活サービスが急速に拡大してきている。元来の自然発生的なコミュニティーで偶発的に生じる「自然な」恋愛と比べればマッチングサイトや婚活サービスで生まれる恋愛は「不自然な」恋愛という人もいるだろう。その「不自然さ」はそれらのサービスがもつ不特定多数の男女を一つの場に集め、そこでカップリングを行うという元来の自然発生的なコミュニティーとは異なる、ある種の市場的な性質によるのではないだろうか。出会いを求める男女はその市場へと行きつき、互いに商品になると同時に互いの買い手でもあり、その支払い代金はその市場を運営する者へと流れる。運営側はその市場に男性には高収入や高学歴、高身長、女性には年齢といった制限を設けることで市場に出入りする買い手兼商品を制御し、男女のマッチングを高確度にすることでより効率的に商品を売買することができる。
こう聞くと運営側が悪者扱いされてしまいそうだが、そこに出入りする買い手兼商品の男女にもメリットはあり、その市場に行けば自然発生的なコミュニティーで生じる偶発的な出会いを待つ時間というコストをかけずに、より自らの嗜好にあった商品(異性)を品定めすることができるのだ。
この効率性がゆえ恋愛の市場化、マッチングサイトや婚活サービスによるカップリングは今後も拡大し続けるだろうと婚活パーティーに初めて参加してみてそう考えざるにはいられなかった。
人は働くために生きるのではない、生きるために働くのだ
野球選手、サッカー選手、お医者さん。
パティシエ、保育士、看護師さん。
小学生がなりたい職業の定番はこんなところだろうか。
中学、高校、そして大学へと進むにつれこれらの夢なんてまるで子供の戯言だったかのように変質していく。
能力的に就くのが難しかったり、安定した収入が望めなかったり、あるいは成長するにつれ社会の仕組みがわかり始めてより多くの職業を知るようになったり。理由はそれぞれあるのかもしれない。
あなたは仕事に何を求めるだろうか?
やりがい、安定した収入、ワーク・ライフ・バランス、自己成長できる環境、尊敬できる人がいること。
仕事選ぶ基準は人それぞれだろうが、どの基準も満たされるような理想的な仕事はそうそうないだろうし、いくつかの基準は目をつぶらなくちゃいけないこともあるのだろう。
とある友人の話を聞くまで僕はそう思っていた。
大学生の頃、1年間ほどカフェでアルバイトをしていた。
その友人は店舗のオープン当初からのメンバーで僕はその約半年後に勤務を始めたのだが、年齢的には同期で、同じ学生だった。名前はあいちゃん(仮名)という。
あいちゃんは石原さとみ似の可愛い女の子で、その色気に魅せられた男性客から手紙をもらったり、デートに誘われたりするほどだった。
男ウケがいい女性は同性から嫉妬されることがよくあると聞くが、あいちゃんはそんなことなく、素敵な笑顔とたまに見せる天然な性格がチャーミングな女の子だ。
先日、そのあいちゃんともう一人のバイト先で一緒だった女の子と3人で新宿で飲むことになった。
僕はあいちゃんと会えるのが楽しみだった。
なにしろ、バイトをやめてからというものずっと会っていなかったのだ。
一度バイト先のOB、OG飲みを企画し、その時にあいちゃんにも声をかけたが、あいにく残業だから来られないとの事だった。
社会人て大変なんだなー。
大学院に進学し、学生気分にドップリと浸かっていた僕はのんきにそう考えていた。
5月の終わり。夏が本格的に始まりだすつかの間の季節。
新宿で待ち合せた僕らは再会を喜び合った。
社会人になっても相変わらず、人がいいあいちゃん。会社でもきっと職場の人と楽しく仕事をしているのだろう。
「仕事、順調?」
僕は軽いノリで彼女にそう尋ねた。
「実は、私、倒れちゃったんだよね〜」
「えっ!?!?」
僕は耳を疑った。
屈託のない笑顔でそう言う彼女が痛々しく思えた。
「倒れたってどういうことだよ?」
僕は訊かずにはいられなかった。
「私、過労で倒れちゃったんだ〜〜えへへっ」
そう言いながら彼女は自分の脚を指差した。
「ほらここ。青くなってるでしょ??倒れた時にぶつけちゃったんだよね〜」
スカートの下からのぞく彼女の脚は目も当てられないほどに青黒く変色していた。
彼女は過労で倒れたのだった。
週6.5日勤務、朝8時出社の終電帰りで休みは大晦日と元日の2日間だけ。オフィスのフロアには徹夜勤務用の仮眠のためにダンボールが散乱している。睡眠時間は毎日3時間。
ローンを組んで車を買わされ、残業代はみなし残業で皆無。手取り月20万程度。
部長は退職者が起こした未払い給料請求訴訟の対応に追われ、その部長の仕事が降ってくる。
部長に退職の旨を二回伝えるも、無下にされる。
残りの0.5日で同じ会社の彼とデート
内部告発により労働基準監督署の立ち入りが入るも労働環境が改善されたのは一部の営業所のみ。
管理部門で働くあいちゃんは労基の立ち入りの対応に追われ、倒れてしまったのだという。
なんとも皮肉な話だ。
あいちゃんは大学病院の救急外来に運ばれ過労の診断を受け、次月の一ヶ月間は定時に帰るようにとの医師の診断書をもらい、ぼくらにあった時は一週間だけ療養のために休みをもらっていた。
「一週間休みもらえたんだよ〜。まあ有給休暇扱いなんだけどね〜。もう有給使っちゃったから次は倒れられないわ〜〜笑」
有給扱い?
労災は?
もはや労災とかそういう次元の会社ではないのだろう。
やりがいはない、給料はよくない、プライベートもない。
なんのために働くのか?
7月。
彼女の定時勤務も終わり、今頃残業に追われているのだろう。
新宿で飲んだ帰り道での別れ際彼女は冗談めかしてこういった。
「次飲みにいけるのはまた私が倒れた時だね〜〜。次は有給出ないから欠勤扱いになっちゃうなあ笑」
人は働くために生きるのではない、生きるために働くのだ。